温水洋一 若い頃の姿を、現在の穏やかで親しみやすい佇まいから想像できる人は少ない。今、SNSやウェブ上のコミュニティで、過去のポートレートや舞台写真がシェアされるたびに驚きの声が上がっている。切れ長の目元、涼しげな輪郭、そしてフサフサとした豊かな黒髪。そこにあるのは、お茶の間がよく知る「ぬっくん」ではなく、80年代カルチャーの空気をまとった鋭角的な青年の肖像だ。
単なるノスタルジーとして片付けるには、そのインパクトはあまりに大きい。往年のファンだけでなく、昭和や平成初期のサブカルチャーを掘り起こす若い世代の間でも温水洋一 若い頃のビジュアルやアバンギャルドな佇まいが話題を呼び、知られざる初期キャリアに強い関心が寄せられている。名バイプレイヤーと呼ばれる男は、いかにして誕生したのか。その足跡を辿ると、日本の演劇史とエンタメ界の熱い転換期が見えてくる。
「まるで美青年」ネットが騒然とした劇団健康時代の秘蔵写真
発端となったのは、とあるカルチャー系アカウントが投稿したモノクロのスナップ写真だった。そこに写っていたのは、どこか気だるげで、アンニュイな色気を漂わせる20代の温水洋一の姿である。「信じられない」「昭和のバンドマンか文学青年みたい」といったコメントがタイムラインを埋め尽くした。
当時、彼は宮崎から上京し、演劇の熱気に身を投じていた。現代のテレビで見せる「いじられ役」の面影はそこにはない。ファッションも当時の流行を反映したオーバーサイズのジャケットに身を包み、鋭い眼光をカメラに向けている。髪型もボリュームのあるパーマヘアで、今のスキンヘッドに近いスタイルとは対極だ。人は誰しも年齢を重ねて変化するものだが、彼の変貌ぶりはまさに劇的であり、そのギャップこそが多くの人々を惹きつけてやまない。
ケラリーノ・サンドロヴィッチとの邂逅と80年代小劇場演劇の熱狂
彼の原点を語る上で絶対に外せないのが、1980年代後半の小劇場演劇ブームだ。温水洋一の非凡な才能をいち早く見出したのは、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)だった。彼が旗揚げした伝説のユニット「劇団健康」に温水が参加したことで、役者としての運命が大きく動き出す。
ナンセンス、不条理、過激なギャグが渦巻く劇団健康の舞台において、若き日の温水は異様な光景を作り出していた。決して正統派の二枚目として振る舞うわけではない。端正な顔立ちを崩し、奇妙な奇声を発し、誰よりも体を張ってナンセンスの極致を演じた。観客は、その美しさと狂気のアンバランスさに熱狂したのだ。ただかっこいいだけの俳優なら、いくらでもいた時代。だが、美青年の殻を自ら脱ぎ捨て、怪優としての道を選んだ彼の覚悟が、ここですでに芽生えていた。
松尾スズキや大人計画との交差が生んだ「唯一無二の怪優」
劇団健康の活動と並行して、当時の東京のアンダーグラウンドシーンでは、新たな才能たちが互いに火花を散らしていた。その代表格が、松尾スズキ率いる大人計画だ。温水洋一は彼らとも深く交差し、舞台上で唯一無二の存在感を放ち続けた。
松尾スズキが描く人間のドロドロとした情けなさや生々しいおかしみの中に、温水の持つ独特の「ペーソス(哀愁)」は見事にハマった。毒気のある笑いの中に、ふと滲み出る人間の哀しさ。怒鳴り散らすわけでもなく、ただそこに立ち尽くしているだけで笑いと切なさを同時に生み出せる間合いは、この小劇場時代の苛烈な現場で徹底的に鍛え上げられたものだ。
事務所「ワン・ツゥ・スリー」設立と日本のテレビドラマへの本格進出
劇団健康の解散後、彼は仲間たちと共に芸能事務所「ワン・ツゥ・スリー」の立ち上げに関わる。舞台という限られた空間から、より広い映像の世界へ挑むための足がかりだった。1990年代半ばから後半にかけて、彼は深夜番組のコントや日本のテレビドラマの端役として、少しずつ画面に登場し始める。
テレビの世界は、劇場の何倍もシビアだ。短い尺の中で視聴者に強烈な印象を残さなければ、次の出番はない。薄毛を自虐ネタに昇華し始めたのもこの時期だったが、それは単なる諦めではなく、映像のプロとして生き残るための高度な戦略でもあった。美青年だった過去を完全に手放し、「愛すべき隣人」「どこか頼りない小市民」のアイコンへと自らをリブランディングした瞬間である。
『BOSS』から『ALWAYS 三丁目の夕日』まで:異彩を放つ名バイプレイヤーの真骨頂
2000年代以降の彼の活躍は、もはや説明不要だろう。天海祐希主演の刑事ドラマ『BOSS』で見せた山村刑事役は、彼のキャリアにおける金字塔の一つだ。普段はサボり癖のある情けないベテラン刑事でありながら、肝心な場面で絶妙なアシストを決める。その絶妙な匙加減は、温水洋一にしか演じられないキャラクターだった。
映画界でも、山崎貴監督の『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズをはじめ、数々の名作に欠かせないスパイスとして重宝された。昭和の街並みに溶け込む自転車屋や商人など、市井の人々を演じさせたら右に出る者はいない。若い頃に培ったアバンギャルドな演技力という強固な土台があるからこそ、一見普通に見える役柄の奥に深い奥行きを与えることができるのだ。
NetflixやU-NEXTで今すぐ観るべき若き日の異色作と名演アーカイブ
ストリーミングサービスが生活に定着した現在、彼のキャリア初期から円熟期までの作品を手軽に追体験できる環境が整っている。NetflixやU-NEXTなどのプラットフォームでは、彼の名を世に知らしめた名作ドラマや映画が幅広くラインナップされている。
特にチェックしてほしいのは、90年代から2000年代初頭の少し尖った深夜ドラマやインディーズ映画だ。画面の隅で圧倒的な違和感を放ちながら、確実に物語の空気を支配する若き日の温水洋一の姿を確認できるはずだ。SNSで話題の「美青年時代」に驚いた後は、ぜひ動画配信サービスで、その美しさを脱ぎ捨てて本物の表現者へと進化していった過程を確かめてみてほしい。名脇役の笑顔の裏にある、表現者としての底知れない凄みに圧倒されるはずだ。 (出典: 温水洋一 若い頃(Yahoo!ニュース))